蔑視
旅に出なくなって久しい。我が師である松尾芭蕉ならば発狂してしまうだろう。
幸いなことに僕は俳人ではないためなんとか正気を保っている。
そしてこのブログの更新もかなり滞ってしまった。
どんなに仕事を一生懸命にやっても、楽しいことがあってもこのブログを更新するというタスクをサボタージュしている以上、心は晴れることはない。
「シングルベッド」のつんく♂状態で、おしゃれをしても、車変えても結局変化もないままなのだ。
前回のブログを自分で読んでみた。結びに、次回はアメリカグルメを紹介しようと述べていたが、何を言うか。
僕たちはアメリカ横断中食事らしい食事をしていないし(レンチンした芽キャベツや2tトラックに轢かれたように薄いハンバーガーばかりだった)、たまの外食も腹の減った大型犬よろしくサーブされた途端にカッ喰らってしまうため、写真など残していない。
ただの逃避だったのだ。執筆という作業からの。
食事の写真を貼り付ければ満足するだろうという蔑視である。読者に対しての。
5ヶ月前の僕はそんな卑劣な人間だった。
しかし、今の僕はしっかりと執筆をする覚悟と胆力がある。今後もアメリカ横断について余すことなくお届けすることをここに約束する。
ある夜の出来事
その夜は僕がハンドルを握り、冨澤が助手席に腰を据えていた。
Queenを大音量で流し、ワシントンまでの道をひたすら北上中。
深夜1時、坂本と石原が寝息を立てている。
ハンドルを握る僕も少しぼーっとする時間が増えた。アメリカの直線的なハイウェイをひたすら運転しているとそうなるのも無理はないだろう。
ふと気がつくと、前の車との車間距離がかなり近くなっていた。
おっと危ない。慌ててブレーキを踏み、車線を移動した。
そろそろ休憩しようか。
冨澤が言った次の瞬間、機関銃を乱射したかのようなけたたましいクラクションを鳴らしながら車が一台こちらに近づいてきた。
どうやら先ほど僕が車間距離を詰めてしまった車の運転手の機嫌を損ねてしまったようだ。
申し訳ないけどそんなに怒るかな。ぶつかったわけでもあるまい。
そんなことを考えていると、横揺れとともに、
「ドン、メキメキメキ、パリーン、ドンガラガッシャーン」
と音がした。どうやら煽るに飽き足らず我々の右車体に体当たりまでキメたようだ。
マジでキレてんじゃん。
車窓に目をやると、運転席からキャップを被った細身の20代後半らしき男性がこちらに向かって中指を立てながら何かを叫んでいる。
何より目を引いたのは運転席のガラスが割れていること。何かが割れる音は彼の車のガラスの音だったのか。
ひとしきり叫び終えると彼は瞬く間に走り去ってしまった。
僕がまず考えたのは、みんなの身の安全
ではなく、
「うわ事故った最悪。相手逃げたし保険使えるのかな」
である。人間以外と冷静なものだ。
全額弁償は避けたいので保険を使える可能性を少しでも残すべく、僕が選んだのはその場に留まり警察を呼ぶことだ。
ハイウェイの路肩に停車し警察に電話をした。
現場検証に行くから待ってろと言われるのかと思ったが、
「怪我人いないなら近くのガソリンスタンドで話聞くわ」
という意外な返答だった。この時点でRVの傷の具合はまだわからない。
僥倖
ガソリンスタンドまで車を走らせた。
到着するや否や、僕たちは全員RVから降り、傷の様子を確認した。
くまなくRVの外側を凝視するも、微塵も傷は見られない。
こんなことがあるのか。あの音はなんだったのか。相手のガラスは確実に割れていた。
戸惑っているうちに現地の警察が到着し、事の成り行きを説明するもするも、怪我人はなく、車体に傷もないなら何もできない。まあ良かったじゃないか。
そう言い残すとすぐに立ち去ってしまった。
もちろん、傷もないので事故申請もできないまま。RVも問題なく走ったので旅は継続された。
ただし、体当たりをキメてきた彼が僕たちを探した全員メッタ刺しにないとも限らないのでその晩は車通りが多いガソリンスタンドの駐車場で夜を明かした。
僕たちは本当に体当たりされたのか。
それとも僕と冨澤の幻覚だったのだろうか。
そういえば坂本と石原は
「衝撃はさほど感じなかった。急に止まったことに驚いて起きた」
と言っていた・・・・・
いやそんなはずはない。確かにぶつけられたし彼はこちらに向かって何か叫んでいた。
皆様もアメリカドライブの際はご注意を。
それにしても相手のガラスは割れていたということはあの寒空の下オープンカー状態で走行したのか。かわいそうに。