2020年2月16日22:48(アメリカ西部時間)ヨセミテの山中にて
「行ける??」
「いや、無理っぽい」
ガガガガガ。ズンッ。
「もっとハンドル切って!」
「もうこれ以上無理だって!」
「雪がタイヤの隙間に詰まってるんだよ!」
「車壊れちゃうよ」
「ここで壊れたらいくらかかるのかなあ」
「・・・・・・」
「おしっこしたい!」
「俺も!」
「寒い!死ぬ!」
「あ、車来たよ」
「Help us!!」
アメリカ西部の雪山でくすぶる大学生4人組。吐く息は白い。彼らはいかにしてこの旅に至ったのか。
プロローグ
大学も卒業間近になると、当の4年生の会話は一つだけ。
誰がどこに就職した、もしくは留年する、進学すると言った話題だ。
この話題はパンパンに空気の入った風船を触るように慎重に行われる。
そして重くなった空気を払拭するために卒業旅行はどこに行くのかと方向転換。
僕も例に漏れずそんなパターン化された会話を何度も行っていた。
ヨーロッパに始まり、大学最終年はしこたま海外に行ったから卒業旅行は行かなくていいなと構えていた僕だったが、周りの友人達がやれアフリカに行くの南米に行くだなんて話を聞いているといても立ってもいられなくなり、学生時代にしかできない旅をしようと考え始めた。
中国を徒歩で横断なんかいいなあ。それともシルクロードを本当に歩いたらどれぐらい時間かかるのか試してみようか。行きたい場所が出てくる出てくる。
予算と時間を加味して考えていると、中央大学総合政策学部棟の2階ロビーで一人の男が声をかけてきた。
坂本という男だ。彼は特にやる事もないはずなのになぜかいつも大学にいる。
「ゑがぺろは卒業旅行どこ行くの?」
「まだ決めてない」
僕は答えた。
「一緒にどこか行こうぜ」
夏のヨーロッパ以来、一人旅をしていなかった僕は一人で行こうと考えていたので面食らったが、せっかくの卒業旅行だ。大学の友人とワイワイ行く方が楽しいに違いない。
「いいね」
二つ返事で答えた。
「どこ行く?」
坂本は東欧などに興味があると言ったが、僕は前にも述べた通り、ちょっとしたアドベンチャー要素を組み込みたかった。
「じゃあ、キャンピングカーでアメリカ横断は?」
どちらが言ったのか今となっては思い出せないがこの一言で全てが決まった。
レンタカーの料金などを調べていくと決行には最低4人が必要という結論に至り、同じ学部で共通の友人である石原という男と冨澤という男の二名が抜擢され、彼らも快諾したためにみちづれとなってしまった。
3週間のレンタカー代が一人10万円、ガソリン代が一人4万円。飛行機代一人8万円也。
2020年2月14日、アメリカはカリフォルニア州のレンタカーショップ、「エルモンテRV ロサンゼルス支店」からこの旅は始まった。目指すは同じくエルモンテRVのニューヨーク支店だ。