僕たちは何故ここにいるのか(哲学的問い)
LINEに友達が100人以上いる場合、その中の一人か二人のアイコンはグランドキャニオンを背景に微笑んでいる本人に設定されているに違いない。
試しに僕のラインの友達リスト271人をチェックしてみたところ、一人が該当し見事この仮説は立証された。
一番多かったのが海をバックにした写真。4分の1はその類だった。沖縄の海、地元の海、ハワイの海、舞の海。
思い入れのある海との一枚は自分を際立たせてくれる。
生命の母なる海に安心感を覚えるのかな。そのあたりについて真面目に研究してみると面白い結果が得られそうだ。
ちなみに自分の胃カメラ検査の写真を無言でLINE送付してくる最高にパンクな僕の祖父のアイコンは何故か女性用ファンデーションの容器だった。
とにかく僕たちはグランドキャニオンを目指してラスベガスからひたすら東に向かった。
残念ながら道中の記憶と写真は全く無い。
きっとただただRVを走らせていただけに違いない。
目的のグランドキャニオンが近づくにつれて雪が降り始め、路肩には雪が積もっている。
ヨセミテでの一件以来、僕たちは雪を見ると戦慄するパブロフの犬的な感覚の身体になっていた。
ただ、グランドキャニオンまでをも諦めてしまうと、本当に何をしにアメリカまで大金を叩いて来たのか分からなくなってしまう。
雪道運転のスペシャリスト・冨澤にハンドルを託し先を急いだ。
降りしきる雪の中、グランドキャニオン国立公園のRVパークに到着。
ここで夜を明かし、早朝に皆のLINEアイコンになる壮大なスポットにアタックしよう。
グランドキャニオンのRVパークにはもちろん排水設備もあるため、ここで排水をして・・・できない。水が出てこない。最悪の疑惑が浮上した。排水が凍結してしまっているのではないか。タンクが凍ると破損して結構な費用を請求される上、保険は効かないらしい。
諦めずに何度もチャレンジして・・・パキッ。排水用ホースが寒さで折れてしまった。これでタンク凍結の有無に関わらず排水ができなくなった。
気温を見てみると-14℃。仮に今タンクが凍っていなくても一晩ここに駐車していたら確実に凍結する。
そしてとにかく寒い!寒すぎる!僕の寒さ記録が更新された。今まで行った北国(デンマークやスウェーデン)よりも絶対に寒い。
そんなことを考えながら僕はとりあえずRVパークの雪を食器に擦り付けて洗浄した。甲子園で敗れた球児が砂をかき集めるように。
結論
RVパーク到着から約1時間後、僕たちは下山を始めていた。
夜の雪道を無言で運転する冨澤の横顔。もう一生見たくなかったデジャヴである。
結局、大学4年生の冬という人生でもトップ5に入るであろう貧困期の僕たちは排水タンク破損による高額請求に怖気付き、満場一致で下山する事になった。
もしかしたら運が良くてタンクが凍らずに朝を迎えられるかもしれないラッキーにかけるギャンブル魂もラスベガスで消費してしまっていた。
あれ、俺たちアメリカで何もしてなくない?
絶対に口に出せない疑問を全員が抱きながらグランドキャニオンのRVパークを後にした。
結論:グランドキャニオンの駐車場だけ楽しみました。