石原という男
2019年2月14日の夕方(日本時間)すでに現地入りしていた坂本と冨澤に遅れて、僕と石原は羽田発のロサンゼルス行きの便で日本を発った。
アメリカに着くまでの間に、石原という男について少しだけ話そう。
僕が石原と出会ったのは2015年の春、大学入学後初めての第二外国語の授業だった。ーーそう、勘の鋭い方はお気づきでしょう。僕が旅狂いになってしまうキッカケとなった中国語の授業です。
白いシャツにチェックのベストをレイヤードーー後に判明するがそれはレイヤードではなく、初めからくっついていて分離できない仕様らしい。どこに売っているんだーー・細身のチノパンという出立の彼はすごく育ちが良い金持ちの出のおぼっちゃまという印象を受けた。
実際長野出身の彼は他の友達のそれに比べると立派なアパートに住んでいたし、もしかしたら本当にそうなのかもしれない。
そういえば彼とは一緒にタイにも行っているんだった。
同じソフトボールチームに入っていたし、今考えたら4年間で最も一緒にいる時間の長かった友人の一人だ。
しっかり者の彼は今回の旅では僕たちのお金を管理する大蔵大臣の役を担うことになった。
石原と行ったタイ編。ちなみに石原はほとんど登場しません。
羽田空港国際線ターミナルの「つるとんたん」でうどんを頬張る石原。ワインレッドのFILAがよく似合っている。
合流。トラブルの始まり
おっと、石原の話をしているうちに僕たちが乗ったデルタ便はロサンゼルス国際空港に到着してしまった。
レンタカーの時間に間に合うように坂本と冨澤と合流しなければ。
Uberで向かった駅の駐車場で二人と合流。
しばらく会わないうちに坂本が真っ白な金髪になっていた。さて、今回最後の相棒であるキャンピングカー君を迎えに行こうじゃあないか。
僕たちは意気揚々とレンタカーショップに向かった。
しかし早速困難に直面することとなる。
トラブル① 支払い不能
レンタカーショップでキャンプングカーの使い方のビデオを30分ほど鑑賞すると、いよいよ手続きに入る。僕たちは日本の免許証のみでレンタルができる店を選んだので、普段居酒屋で行う年齢確認と何ら変わらない所作で免許証を見せると、思いもよらぬことをスタッフから告げられた。
「とりあえずデポジットで10万円払ってちょうだい」
ザワザワザワ。そんなの聞いていない。何も知らない。4人の男たちは天を仰いだ後、レンタカーショップとのやりとりを担当していた坂本を一瞥した。考えていることは皆同じだった。
ここでカードは切りたくない!学生の身分で10万円もの支払いをカードで行うことは死を意味している。
現に僕が使っていたANAの学生カード(すごくマイレージ貯まりますよ。オススメです)の利用上限は10万円/月だったので、ここで僕のカードをスキャンすることは、少なくとも今後のアメリカ生活で一切それが使えなくなることと同義だ。
この時はさすがに上限を上げていた気がしないでもないが、とにかく自分のカードでこのデポジットを支払うこと皆避けていた。
しかしここで名乗りを上げられるのが坂本という男である。
彼は勇敢な男だ。大股でカウンターに歩み寄ると強風に煽られる信号機のように震える太い腕でカードを差し出した。
スタッフはそれをスキャンするも首を傾げる。何度もトライするが結果は一緒だ。
「これじゃダメみたい。他のカードは?」
こうなったら仕方がない。
先鋒の坂本が敗れると、僕たちは次々に己のカードを差し出し始めた。次鋒冨澤のアメックス。敗戦。国際的に強そうなこのカードが破れるなんて。なんて強敵だ。中堅・石原の楽天カード。お話になりません。ポイントに特化した石原のカードはこういうときに弱い。副将・ゑがぺろのANA学生カード。滅多打ち。
せっかくアメリカに来たのに僕たちはキャンピングカーを借りられずに体育座りをしたまま3週間ロサンゼルスに居座るのね・・・・・・
ぼくたちはめのまえがまっくらになった!しょうきんとして・・・
伸びる一本の右手。坂本の手だった。何と、坂本はもう一枚カードを隠し持っていたのだ。
固唾を飲んで見守る僕たち、全ては彼女のスキャン技術にかかっている。
スキャン!!
無音が続く。すると、電子音とともに長いレシートが飛び出てきた。
成功だ、僕たちは晴れてデポジットを支払うことができた。
「車の場所に案内するわ」
彼女もどこか誇らしげだ。
ようやく旅のスタートラインに立った。
一番バッターの操縦士は怖いもの知らずの冨澤が務めることとなった。
第一のチェックポイントはロサンゼルス市街だ。
でも今日は広い駐車場があるスーパーマーケットの駐車場で眠ることにしよう。