初のお目覚め
初夜にジャンケンで寝床を決めた僕たちは各々の場所でぐっすりと眠り、翌朝は快適に目覚めることができた。
前日の雨天とは打って変わって清々しいほどの晴天。
昨晩の運転で完全にキャンピングカー(以下RV)の操縦を己のものにした冨澤がロサンゼルスの中心地へ車を走らせた。
「そのうち運転代わるね」
冨澤以外の誰もがこの言葉を繰り返し口にするが、2日間実行されぬままだった。
つまり、路線バスと同尺のモンスターの操縦に慄いていた僕たちに代わり、一人で米国の車社会を走り続けたのだった。恐ろしい男である。
僕たちが眠っていたスーパーマーケットから3時間ほどでロサンゼルス に到着した。
記念すべき初観光の場所はグリフィス天文台。ハリウッド映画「ラ・ラ・ランド」でセブとミアがワルツを踊る名場面で有名だ。
ロマンチックの殿堂に髪の毛とひげがボサボサの4人の東洋人が連れ立つのには抵抗があったが仕方がない。まだこんなの序の口だ。
自己分析の欠落
さあ困った。僕たちはロサンゼルスを見くびっていたのかもしれない。車を停める場所が見つからないのだ。
ロサンゼルスの中心街ーー東京で言えば新宿東口の靖国通りのヤマダ電機のあの交差点付近かーーをRVで通る僕たちは明らかに好奇の目を向けられていた。
やっとの思いで駐車場を発見しても、
「何を考えてるんだ君たちは。この狭い駐車場にそれが停められるわけがないだろう」
「だってよトミー(冨澤の愛称。全国の富田さん、富澤さん、富永さんの98%のニックネームはこれに違いない)。バックバック。車来てない。大丈夫」
このやりとりを繰り返していた。気持ちが良かった。自らの車体の大きさを自覚する。これがアメリカでRV生活を送る大鉄則なのかもしれない。
徘徊すること40分、グリフィス天文台のある丘の上に駐車場を見つけることができた。だが、駐車場前の樹木に引っかかり、ここでも冷や汗をかくこととなった。
歩ける!!
RVのエンジン音が止むと僕たちは安堵の息を吐いた。4人中3人はハンドルすら握っていないのに。
そうだ、これが卒業旅行だ
僕たちはここまで息を詰めて道を間違えないように・ガソリンを無駄に使わないように・そしてRVを傷つけないように運転し、駐車場を探していた。
夜は半分野宿だからできるだけ治安の良さそうな場所を選び布団にくるまった。もはや旅行というより、RVという高価で重い重い十字架を背負ったままニューヨークを目指す生存ゲームだった。
こういった観光地でひとときでも十字架を下ろし学友と談笑しながら歩く時間は、軽やかでセブとミアのようにワルツのステップを踏みたくなる。
ようやくひとつのチェックポイントにたどり着いた僕たちはグリフィス天文台を一通り見ると、満場一致でもうRVには乗りたくなかったのでUberでハリウッドに向かった。
次回は少しハリウッドに触れて車内に戻ろうか。