雪辱
ヨセミテの山中を慎重に1時間ほど走っただろうか。
標高が上がるにつれ、確実に路面に積もる雪の量が増えていく。
僕たちの頭の中にも一つの疑念が浮かんでくる。このRVは雪道走行ができるのかと。
時々すれ違う車や僕たちを追い越していく車には例外なくチェーンが付いていたし、標識でもチェーンもしくはスタッドレスタイヤの装着を呼びかけている。
もちろんこのRVにはチェーンなんか装備していないし、スタッドレスタイヤも履いていない。
今はまだいいが更に高地ではどうなるのか想像するのも怖い。
迷った時のディスカッションタイム。これは鉄則だ。地図を見ると道沿いにキャンプ場のような小屋群がある。
そこに車を停めて話し合おう。
駐車場に入ろうとしたその時、ズシッという音と主に車が止まった。
駐車場に積もった雪をタイヤが巻き込んでいた。シフトレバーをバックに入れてみるが動かない。ーー終わった。このヨセミテ国立公園が僕たちの終着点だ。レッカー代はいくらだろう。車に乗って帰れるのかな。徒歩帰宅は避けたい。
全員がきっとそんなことを考えていた。
「行ける??」
「いや、無理っぽい」
ガガガガガ。ズンッ。
「もっとハンドル切って!」
「もうこれ以上無理だって!」
「雪がタイヤの隙間に詰まってるんだよ!」
「車壊れちゃうよ」
「ここで壊れたらいくらかかるのかなあ」
「・・・・・・」
「おしっこしたい!」
「俺も!」
「寒い!死ぬ!」
「あ、車来たよ」
「Help us!!」
一台の車が駐車場に入ってきた。キャンプ場の利用者だろうか。
車から降りた。こちらを見ている。そりゃそうだ、こんな夜間にRVが立ち往生しているんだもの。
あ、こっちに向かってくる。近づいて来た。僕たちの真横で止まった。冨澤に何か言っている。
冨澤は彼のジェスチャー通りにハンドルを回す。ゴゴゴゴゴゴ、ズササササササ。ゾウが立ち上がるような音を立てながらRVは動き出した。
生き返った。旅はまだ続きそうだ。
僕たちを助けてくれた彼は、自分の行為が一年越しにあの時の日本人のブログに書かれているなんて思いもせずに今もスヤスヤ寝息を立てているだろう。おやすみなさい。眠れバラードのように。
何とか雪から逃れた僕たちは話し合う間もなく来た道を引き返した。
もう雪道は懲り懲りだ。今回はヨセミテ国立公園は諦めて先へ進もう。
前回のサンフランシスコ断念に続き、ヨセミテ国立公園も諦めた。
やはり今思うとリスクを取っても良かった気もするが、現場での自分たちの判断がきっと正しかったのだろう。
僕は眠くなったので坂本と助手席を交代し、運転席上の振動が激しいベッドで睡眠を取った。
5時間ほど眠っただろうか。どうやら車は走行している。
つくづく冨澤という男は恐ろしい。
降りてみると、アメリカの大地と太陽がヨセミテ国立公園を諦めて傷心した僕たちの心を慰めてくれていた。