出血
ニヨンの安宿で目覚めると、枕が血だらけだった。
全く思い当たる節が無い。手、足、全てをくまなく調べる。
傷はない。どこから?鼻血?――自慢じゃないが人生で一度しか鼻血を出したことが無い。高校3年生の7月。避難訓練か何かで灼熱の中校庭に整列させれ、長い長い校長か教頭だかのありがたいお話の最中に突然鼻孔から流れてきた赤い液体に思わず笑ってしまった。
そしてその日に別件で初めての停学処分を言い渡された。
――ああ!思い出した。夜中起き上がったときにベッドの縁に顔面を強打したんだ。それにしても人間の睡眠欲は恐ろしい。流血しながら爆睡できるのだから。鏡を見てみると目の上に1センチほどの切り傷ができていた。
かわいそうな僕。
湖畔散歩。マーメイドを見かける
案外痛みは小さかったので気にせずにニヨンの街を歩いてみることにした。
なんてことない湖畔の町だ。僕はそう思った。
しかし古代ローマの時代に建てられた由緒正しき場所のようだ。ちらほらとローマ時代の遺物が垣間見える。
湖の淵まで下りてみた。
水は透き通っていて美しい。淵に沿って散歩していると、さらに透き通ったものを見つけた。
1人の女性が水際に座って、何もせずにレマン湖を眺めていた。なんだかすごく透明でかっこいいと思った。遠くからその後ろ姿に向けてシャッターを押すと、僕はそっとその場を離れた。